外練してると話しかけてくる人(1)〜死に取り憑かれた鈴木君

自分は外で練習する時は大体深夜です。騒音の問題から周囲に民家がないような場所を選んでます。

しかしどんなにひとけのないところを選んでも全く人がいないということはほとんどなく、二時間ぐらいいると数人はプラプラとやってきます。

大体の人は「練習してる人」と確認しながら去っていくのですが、中には楽器を口から離すまで待ってる人がいます。そういう時は挨拶から始まってしばらく会話することがあります。


千葉のナンパ橋とマリンスタジアムの中間には人工の防風林地帯があり、最近スポーツ施設ができてまともになりつつありますが、無人度が高く練習には最適でした。


11月か12月のもう結構寒い時期の頃だったと思います。その林の中で深夜0時ごろ練習をしてると20代前半くらいの男がこちらに歩いてきました。実はこういう場所に一人で来る人は珍しく大体はカップルか、友人同士2、3人できます。


行き止まりな場所なので、こちらに向かってくるとイコール私に用があるという感じで、10メートルぐらい接近したら楽器を離して待っていました。


「誰もいないと思ったら音が聞こえたので。。」

やたら周りをキョロキョロしてました。

「よくここで練習してますんで」


「怖くないですか?」

「別に。東京湾の夜景も綺麗ですし」


「この辺殺人事件があったんですよ」

(そんなニュースはあったが一駅か二駅離れた場所)

「向こうのマリンスタジアムも試合があれば人も結構いますよ」


「この橋の下自殺スポットじゃないですか?」

「いやいや、あれはナンパ橋っていうんですけど、待機車が並ぶ横で飛び込むやついないっしょ」


という感じで、いくら話しても話題をすぐ「死」「恐怖」に持って行こうとする彼と何故かそれを否定してしまう私との攻防?が続きました。

彼は思い詰めて死のうと思ってるとか、何か犯罪を犯してしまったとかそういう感じではなく、例えるならスティーブンキングの映画をさっき見た中学2年生がそれに影響されて、一人で肝試しをしているみたいな、そんな感じです。


しかし彼はビビりすぎというか、林の中には結構動物がいて常にカサカサとはしてるんですが、いちいちビクッと反応する様子。


なんとか明るい話題にしたい私は確か昨日夜の釣り番組でこの辺にシーバスが釣れるとかやってたのを思い出して、「シーバスが釣れる釣り師にも人気のホットスポットだ!」

みたいなことを言おうと思いました。しかし私は釣りをしたこともなくテレビで見てるだけの知識しかありません。


「でもこの辺スズキ、(あれシーバスってスズキ?、イトウ?イトウは北海道だっけ?)スズキ?、スズキ?」変にスズキを連呼して変な間が空いてしまいました。


そうすると彼が恐怖の表情を浮かべて、ジリッと後ろにさがって絞り出すような声で


「なんで僕を知ってるんですか?」


という言うなり走って逃げてしまいました。

その時は自分も意味がわからず暫くして「あ、もしかしてスズキ君だった?」と気が付きました。


彼に期待通りのホラーな展開をプレゼントしてしまったのかもしれません。

ちなみにその後もその場所での練習はしばらくやっていましたが鈴木君は2度と現れませんでした。


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